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2016年5月26日 (木)

2015.8.27

『明日と明日』(ハヤカワ文庫SF)を一気読みしてしまった。
これは凄い。どう凄いかというというと
SFならではの比喩性と、現在の拡張たるSF世界が見事に一つにまとまっていることである。

本書の電脳世界ではマーケティングも進化し、個人の嗜好に合わせただけでなく、
リアルタイムにポップアップ広告が視覚に飛び込んでくる。
コーヒーの会話をすればカフェのポップアップが、痩せたいなと思えばフィットネスジムの、
エロいこと考えればポルノサイトのポップアップがでてくるのである。

また電脳空間にあるアーカイブと呼ばれるピッツバーグの仮想世界は、
現実には自爆テロ(核)で壊滅した都市の在りし日の姿を、住んでいる人ごと再現した空間。

在りし日の街のデジタルデータ(防犯カメラ、買い物履歴、タクシー、移動データ、個人のカメラなど)から、
個人の生活が再現されていて、どの時系列からでも繰り返して体験することができる。
この体験とは肉体的感覚をもって仮想空間に没入できるし、
仮想世界の住人でも簡単な返事や受け答えはできるようになっている。
しかし住人たちはかつてその場にいたが、現実にはすでに死んでいて、その街も存在しない。

そんな仮想世界で主人公は死んだ妻との思い出に浸り、永遠に傷が癒えることのなく繰り返していく。

震災で失われた街の在りし日が
もしグーグルストリートビューで見られることが出来たら。そして映っている人々が当時のまま再現されていたら。
その中に亡くなった親しい人を見たら…

日本人としてはこの設定から震災のことを思い起こさずにはいられないと思う。

電脳世界のマーケティングとSNS、膨大な情報量とその醜悪さ、それらが仮想空間と現実とで混じり合い、
かつてのドラッグノベルのようなトリップ感覚が生まれている。

そして謎の死体、ファムファタール、正体不明の敵と味方、そんなノワールの定石で物語が進んでいくのだから面白くないワケがない。
僕の中で今年のベストSFは『紙の動物園』がトップであったが、『明日と明日』に変えさせていただこう。

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