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2015年5月 4日 (月)

【書評】映画をより深く楽しむにあたり必携の名著 『60年代アメリカ映画100』

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『60年代アメリカ映画100』 石澤治信・渡部幻編 芸術新聞社

図書新聞 No.3177 ・ 2014年10月04日掲載

 書店の陳列方法に「文脈棚」というのがある。
ある一冊の本の両隣に、内容、読後の興味が向かうであろう繋がりのある本を陳列する方法である。この文脈棚から一冊の本を抜き出して読んでしまうと、その関連書まで気になり次から次へと手に取ってしまい、読書の深みにはまり込んでしまうなんとも危険な陳列方法なのである。
 
 そしてそれは映画においても同様なのである。ひとつの映画作品を語る際、この文脈というものがより深く、より魅力的に作品を彩るのである。

 例えば昨年公開された『ゼロ・グラビティ』(2013年)は宇宙空間で事故に遭遇し、次から次へと迫り来る危機を回避しつつ地球への生還を目指すだけのシンプルなストーリーであるが、本作パンフレットの町山智浩氏解説では、サバイバル映画として『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)や『オール・イズ・ロスト~最後の手紙~』を、また本作の見所でもあるワンカットの超ロングテイクや実際の時間と劇中の時間を同じにする映画として『真昼の決闘』(1952年)、『十二人の怒れる男』(1957年)が引き合いに出されている。そして名作『2001年宇宙の旅』(一九六八年)も当然取り上げ、シンプルな本作を語る上でこれらの他作品からの文脈から奥行きが生まれ、作品・映画をより楽しむ方法を教えてくれるのである。
 
そしておそらく、そんな映画の文脈に取り憑かれた人々が編んだのが今回紹介する『60年代アメリカ映画100』である。

 本書は2000年代の映画、俗にいうゼロ年代から90年代、80年代、70年代と遡って刊行され、今回の60年代で五冊目となるシリーズである。
他の映画紹介本と一線を画するのは、映画100作品を選ぶにあたって、本シリーズに共通した選定基準である。
 
〝前提としたのは、現在の視点から見直すべき作品に目を向けることであり、単に日本でのみ通用するものでなく、グローバルな視点から作品を評価することだった。◯◯年代という時代の洗礼を受けた作品群が、時を経て現在に生きる自分たちにどのようなことを、より普遍的なかたちで投げかけているのか、が選定に際し重要と考えたからだ。〟
 
アメリカ映画を評するにあたり、各々の時代の社会、カルチャーを背景とした文脈から映画を読み解いているのだ。それは各作品の評論にとどまらず、差し込まれるコラムからもうかがえる。生井英考「60年代アメリカ社会総論」。粉川哲夫「アメリカ映画のメディア的側面」。川本三郎「ケネディの登場によってアメリカ映画が変わりはじめた」。大久保賢一「オルタナティブなアメリカ映画の誕生」。高崎俊夫「60年代映画とジャズをめぐる私的断章」。原田眞人「FKLPと60年代アメリカ映画監督再考」などなど。そして作品評論に付帯する膨大な注釈。これを取り憑かれたと言わずなんと言おうか。そして編者が『ゼロ年代アメリカ映画100』を編んだ時に思ったのであろう、ゼロ年代を語れば90年代から語らねばと。そして90年代を編んだ時には80年代をと。
 
 昔、非常口誘導灯が上映中も点灯していた映画館でぼんやりとしたスクリーンで見ていた記憶の中の映画も、現在はデジタルでアーカイブ化され、高画質になり、まるで最新作のように鑑賞できる時代になった。
しかし、それは作品単体から時代性を読み取ることが体感的に難しくなってきたということである。
 
本書、本シリーズはそのような失われつつある映画作品における時代性を、作品が内包する文脈、または時代背景から読み解き記録した画期的な本であり、映画をより深く楽しむにあたり必携に値する名著である。
 
 本書の棚には名著『70年代アメリカン・シネマ103』(フィルムアート社)、そして『アメリカ文化入門』(三修社)を併せて陳列しているのは言うまでもない。

(鈴木)

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